梅の一年

日本一の梅の里・和歌山県みなべ町に、ひと足はやい春が訪れます。
山々が梅の花で薄化粧した様に、ほんのり白く染まります。

観梅に訪れる人々にとっては、穏やかでやさしい風景ですが、
梅農家にとっては、その年の収穫量が決定する大切な時期です。

この時期の主役は、花から花へと飛び回り、受粉をしてくれるミツバチ達です。

ミツバチが飛んでくれる条件は難しく、天候・気温・風などに大きく左右されます。
開花時期の自然環境が、その年の受粉の割合を決定するのです。

花の散った梅の枝々には、たくさんのちいさな生命が宿ります。

徐々に暖かくなる日差しを浴びながら、梅の実も日一日、成長していきます。

この頃になると、収穫に備えて準備が始まります。
作業をスムーズにするための梅畑の下草刈りや、
果肉の多い大きな実が育つように、肥料が撒かれます。

「雨の恵み」を全身で受け止めて、梅の実は、ひと雨ごとに大きくなります。
「梅雨」とは、よく言ったものですね!

たくさん実がついた枝は、その重さで垂れ下がるようになります。

梅の実に南高梅独特の「紅」が さすようになった頃、
いよいよ待ちに待った 収穫の時がやって来ます。
農園が一年でいちばん忙しく、喜びあふれる季節です。

6月上旬、まず梅酒用の収穫です。
梅酒用には、まだ梅の実が、若く青い時に収穫します。

傷をつけない様、一粒一粒だいじに大事に手もぎしていきます。

こうして「梅酒用」に収穫される 梅の実は、ごくわずか。
ほとんどの梅の実たちは 「梅干用」として完全に熟すまで 樹上で過ごします。


6月中旬~7月上旬、いよいよ梅干用の完熟梅の収穫です。
梅干用には樹上で完全に熟し、自然落下した実をひろい集めます。

梅の実が傷つかないよう、汚れないように木の下には、青いネットを敷き詰めます。

収穫された梅の実は、水洗い・ 選別され、 その日のうちに天然塩で、塩漬けされます。

完熟梅は、クラクラする程「いい香り!」
万遍なく、丁寧に塩を行き渡らせ、 最後に上から重石をします。

これから梅雨明けまで、梅の実たちは 梅倉(梅を塩漬けして保管する倉)で眠りに就きます。

梅雨明けとともに始まるのが、土用干し。
梅酢の中で熟成された梅を引き上げ、真夏の太陽の下で、いよいよ天日干しのはじまりです。

漬槽から出した梅干しを水洗いした後、
一粒ずつ重ならないようせいろに並べ 3~5日程度天日に干します。

梅全体に、まんべんなく日光を当てるため 裏返しながら干し上げます。

町のいたる所で見られるこの土用干しは みなべ町の夏の風物詩となっています。
町中が甘酸っぱい香りに包まれます。

こうして、干し上がった梅たちは、一粒一粒 手作業で
丁寧にタルに詰められ、ふたたび熟成の眠りにつきます。

梅干し作りが終わった後も、 梅農家では休む暇はありません。
来年の収穫に向けて、冬が訪れる前にやっておく作業があります。

来年の収穫量を左右する梅の樹木の剪定作業です。
隅々の枝に、日が当たる様に 全体のバランスを整えます。

土作り(梅の木が必要とする養分を 十分に供給できるように)も大切な作業。
来春の花と実を想い描きながら・・・

梅の木々も葉を落とし、冬支度です。しかし、ホッとする暇もなく、
2月の開花に向けてもう、次の子育てが始まっています。がんばれ!梅のお母さん