烏梅(うばい)

「烏梅」ってなに?
未熟な梅の果実を、薫製(くんせい)にしたもの。 梅実を籠(かご)に入れ、釜戸(かまど)の煙で 黒く燻(いぶ)し、乾燥させて作る。
名前の由来
「烏梅」の「烏」はカラス。 黒い色にちなみ、名付けられたと思われる。 マムシやイモリの黒焼が漢方薬なのだから、 梅も黒くいぶされても不思議ではない。 逆にいかにも効きそうな漢方薬に思える。
どんな味?どんな形?
強い酸味があり、ほぼ球状の形。
表面は真っ黒でシワがあり、壊れやすい。
烏梅の薬効 なにに効くの?
鎮痛・解毒作用がある健胃整腸の妙薬。煎じて風邪薬や胃腸薬として用いる。
「熱冷まし」「下痢止め」「咳止め」「食物や薬物中毒」
「回虫駆除」「止血」「すり傷」「切り傷の手当て」など
昔から民間薬として重宝され、漢方薬として現在も用いられている。
日本女性を彩った「紅」と烏梅の関係
烏梅は漢方薬としてだけでなく、当時は全く別の用途に使われ、貴重な物とされた。
梅には「クエン酸」が多く含まれている。
紅花から「紅」の色素を取り出す時、その天然のクエン酸を
染色の「媒染剤(ばんせんざい)」として利用した。
奈良県の月ケ瀬梅林は「烏梅」を作るために植えられた梅林だ。
しかもそれは薬用ではなく、主に紅花染め用に使われていた。
特権階級の人々が愛用した「紅花染め」。
そして、日本女性を彩った口紅・頬紅に、
烏梅は、欠くことのできない存在だった。
※紅花染めの場合、まずオレンジ色の紅花から、アルカリ性の灰汁で紅色を分離し、
その後、烏梅(クエン酸)で繊維へ紅色を染着する。染色は、化学変化を利用して行われる。
歴史上の文献に記された烏梅
●中国の古書に烏梅の製法
六朝末、後魏で著作された実用農書『斉民要術』に実梅の製法が記載。
「烏梅、白梅、蜜梅」の製法が載っている。
※「烏梅」が薬用の薫製にした黒い梅実。「白梅」が梅干し。「蜜梅」が蜜漬けの梅。
●江戸時代の民間薬
日本では、正徳2(1712)年に発行された図説百科事典の『和漢三才図会』に、
烏梅が「脾・肺二経の血分の薬である」と記載。
インフルエンザを含む悪性流行疫病を治し、咳・熱を止め、白梅はおできや乳腺炎に薬効があると書かれている。
遣唐使が持ち帰った烏梅
万葉時代に中国から、漢方薬として渡来。 日本には樹木より先に、生薬としての烏梅(中国語では「wu mei」ウ メイ)が漢方薬として渡来した。
このため、後から入ってきた樹木も「ウメ」と呼ばれるようになったという説もある。
参考文献:「日本の色辞典」吉岡幸雄